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最高裁判所第三小法廷 昭和36年(オ)1028号 判決 1965年2月02日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は被告人の負担とする。

理由

上告代理人日野魁の上告理由第一、二点について。

所論は、原判決の法令違反を主張するけれども、原判決が、本件養老保険契約において、当事者が保険金受取人を相続人と定めたことにつき、右相続人とは保険金請求権発生当時の相続人を指定したものであつて、本件包括受遺者たる控訴人(上告人)を指定する趣旨ではない旨認定したことを非難するに帰するものである。そして原判決の右判示は、その挙示する事実関係、証拠関係からこれを肯認し得るところであつて、原判決に所論の違法は存せず、所論は、ひつきよう、原審の認定にそわない事実を主張して、原審の適法にした証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、または判決に影響を及ぼさない事項について原判決を非難するに帰し、すべて採るを得ない。

同第三点について。

所論は、養老保険契約において保険金受取人を保険期間満了の場合は被保険者、被保険者死亡の場合は相続人と指定したときは、保険契約者は被保険者死亡の場合保険金請求権を遺産として相続の対象とする旨の意思表示をなしたものであり、商法六七五条一項但書の「別段ノ意思ヲ表示シタ」場合にあたると解すべきであり、原判決引用の昭和一三年一二月一四日の大審院判例の見解は改められるべきものであつて、原判決には判決に影響を及ぼすこと明らかな法令違背があると主張するものであるけれども、本件養老保険契約において保険金受取人を単に「被保険者またはその死亡の場合はその相続人」と約定し、被保険者死亡の場合の受取人を特定人の氏名を挙げることなく抽象的に指定している場合でも、保険契約者の意思を合理的に推測して、保険事故発生の時において被指定者を特定し得る以上、右の如き指定も有効であり、特段の事情のないかぎり、右指定は、被保険者死亡の時における、すなわち保険金請求権発生当時の相続人たるべき者個人を受取人として特に指定したいわゆる他人のための保険契約と解するのが相当であつて、前記大審院判例の見解は、いまなお、改める要を見ない、そして右の如く保険金受取人としてその請求権発生当時の相続人たるべき個人を特に指定した場合には、右請求権は、保険契約の効力発生と同時に右相続人の固有財産となり、被保険者(兼保険契約者)の遺産より離脱しているものといわねばならない。然らば、他に特段の事情の認められない本件において、右と同様の見解の下に、本件保険請求権が右相続人の固有財産に属し、その相続財産に属するものではない旨判示した原判決の判断は、正当としてこれを肯認し得る。原判決に所論の違法は存せず、所論は、ひつきよう、独自の見解に立つて原判決を非難するものであつて、採るを得ない。

同第四点について。

所論は、被告人が原審において口頭弁論期日の再開申請をなしたにもかかわらず、原審が右再開をしなかつたことを非難するものであるけれども、終結した口頭弁論期日を再開するか否かは、原審の裁量に属することであるから、原審の右措置に何らの違法は存せず、論旨は、採るを得ない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(横田正俊 石坂修一 五鬼上堅磐 柏原語六 田中二郎)

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